「仕事をする上でやりがいは必要だ」「やりがいってちょっと胡散臭くない?」
最近テレビやネットでは長時間労働を強いられる雇用者を例に出して、「やりがい搾取だ」なんて言葉が言われるように、「やりがい」という言葉自体が段々とネガティブな響きをもつようになってきました。
ニュースでは、教師の「やりがい」に支えられていた部活動を民間委託しようとしても、今まで「やりがい」に支えられていたために「財源」がなくて民間に委託できない、なんて話も(うーん、ブラック)。
仕事にやりがいや意味を見出すことは、本来であれば仕事へのモチベーションアップや生産性向上につながるので良いことのはずです。
しかし、昨今の日本の状況はそうでないことが多く、「やりがいはいらない」という表現はその表れかもしれません。

というわけで、今回は仕事にやりがいや意味を見いだせない理由を探りながら、本当にやりがいや意味は仕事にとって必要ないのか、そのことについて掘り下げていこうと思います。
結論としては以下の通り。
- 現実では働く目的が「お金を得るため」が圧倒的に多いが、理想は「私生活とのバランス」や「自分にとって楽しい」という収入とは別のところにある人が多い。
- そういった「理想」と「現実」のギャップによって「やりがい」を見失ったりする。
- リクルートワークス研究所が提唱した「生き生き働く」方法によれば、8つの要素の「理想」と「現実」がマッチしていることが必要。
- 「理想」と「現実」のギャップを埋めていくことが「生き生き働く」、つまり「やりがい」につながる。
仕事にやりがいや意味を見い出せない、見出そうとしない人が増えた?
令和4年に行われた「国民生活に関する世論調査」によると、「あなたが働く目的はなんですか」の質問に対して、「お金を得るために働く」と答えた割合は全体で63.3%でした。
特に現役世代、つまり定年を迎える前、60歳以下の人たちは「お金を得るため」と答える傾向が強く、他の項目を圧倒しています。「生きがい」などが増加するのは定年後です。


では、仕事に対して高収入を望んでいるのかというと、実はそういうわけでもないようです。
同じく令和4年国民生活に関する世論調査のデータで、「どのような仕事か理想的だと思うか」に対する回答を見ると、1番回答の割合が高かったのは「収入が安定している仕事」であって、「高い収入が得られる仕事」ではありませんでした。


上位に入ったのは「私生活とバランスがとれる仕事」という「ワークライフバランスを重視した考え方」や「自分にとって楽しい仕事」という「やりがいを重視した回答」が多く見られました。
つまり、この結果からこういうことが言えそうです。
- 「お金を得るため」が働く目的になっている人が多そうである。
- しかし理想は、高収入でなくても「安定していて」「自分にとって楽しい仕事」であり、理想と現実の間にはギャップがある。
- 「自分にとって楽しくて」「やりがいのある」仕事をしたいとは思っているものの、現実の働く目的は「お金を得るため」仕方なく働いている、という意図が隠れていそうな状況。
事実、平成30年版と少し古いのですが、「特集 就労などに関する若者の意識」を見ても、初めての仕事を辞めた理由として「自分と仕事が合わなかった」という理由が43.4%と最も多くなっています。
このことからも、「仕事と合わない」という「仕事のやりがい」や「意味」を失うことは、仕事を辞める原因につながってくると考えられます。(それが一概に「悪」とは言えない側面もありますがね)
そもそも仕事のやりがいや意味って何?


理想としては仕事にやりがいや意味を求めたいけど現実は違う、そんな理想と現実のギャップに苦しむという人がいるのが垣間見えた調査結果でした。では、そもそも仕事のやりがいや意味はどのように見いだせるようになるのでしょうか。
リクルートワークス研究所の「生き生き働く」という研究
「働く」と言えばこの企業を抜きでは語れないと言っても過言ではないくらい、日本の中で重要な位置を占める「リクルート」。そのリクルート内にある「リクルートワークス研究所」が2020年に発表した研究成果があります。
その名も「『働く×生き生き』を科学する」という研究。
エネルギッシュにやりがいをもって働ける状態を「生き生き働く」と定義して、どのようにすれば、「生き生き働ける」のかについて研究しました。
その報告書の中で「生き生き働くための8つの要素」を見出しています。その8つの要素が以下の通り。
(文言等は「第6章 総合報告「働く×生き生き」を科学する 一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会の創造を目指して」の資料より引用)
- 活力実感・・・・自分に任された仕事に没頭し、熱意あふれる取り組みを通じて活力を得ている。
- 強みの認知・・・これまでの仕事を通じて得た経験や専門性を自分の強みとして自覚している。
- 職務満足・・・・責任ある仕事への取り組みを通じて、周囲からの信頼と会社への誇りを感じている。
- 有意味感・・・・取り組んでいる仕事の意味や価値を理解しており、自分自身の成長を実感している。
- オーナーシップ・仕事のプロセスを理解し、進め方やペースを自分で考えながら効率的に取り組んでいる。
- 居場所感・・・・周囲のメンバーからの期待を理解し、職場の一員としての信頼と安心を感じている。
- 持ち味発揮・・・現在の仕事の内容とやりたいことが合っており、自分らしく強みを発揮できている。
- 多忙感・・・・・周囲のメンバーや仕事の状況にかかわらず、いつも全力で働くことに充実を感じている。
これらは「満たされてないから生き生き働けない」というのではなく、8つの項目の「理想」と「現実」の「ギャップがあるから生き生き働けない」つまり「やりがいを感じられない状態になる」ということ。
分かりにくいので、図や具体例を出していきましょう。


この図は、「生き生き働く」をモデル化したものです。
「個人属性(年齢や性別、経済状態など)」「性格・ものの見方(レジリエンス、性格特性など)」「職場環境(自由闊達、柔軟性、心理的安全性など)」が土台にあり、その上に8つの要素が載るようなイメージです。
もちろん、土台である3つの前提の中身が欠けていればそれでも「生き生き働く」ことはできませんが、これらの3つの前提は自分ではなかなかコントロールできない部分でもあります。
20年以上生きてきた性格はすぐに直すことは難しいですし、職場環境も自分ひとりでよくすることは限界があります。
これらの3つの前提の特に職場環境の内の何かが欠けていて「生き生き働けない」のであれば、転職を考えてもよいかもしれません。
しかし、多くの場合は、その上に載っている「8つの要素」の「理想と現実のギャップ」によって、「生き生き働けない」、「やりがいや意味が見いだせない」状態になっているということです。
生き生き働くための8つの要素の評価方法
手順は3つあって、①評価シートを見て、まずは「理想」の状態を想像して点数化する、②もう一度評価シートを見ながら、今の仕事の「現実」の状態を点数化する、③そのギャップを見て掘り下げていく、という3手順です。


8つの要素の「理想」と「現実」のギャップの埋め方
例えば、「活力実感」の部分が理想では高い人がいたとして、現実はさまざまな会議の連続や、後輩・部下への指導に時間が取られすぎて自分のやるべき仕事に没頭できないというギャップがあったとします。
このギャップが「生き生き働けない」、つまり「やりがい」や「仕事の意味」を見失ってしまうことにつながります。
「自分がやるべき仕事はこれじゃない」「自分の仕事にもっと時間をかけたい」という理想と現実のギャップ、これが人を苦しめるのです。
しかし、この評価シートを使えば、どこのギャップで苦しんでいるのかが明確なので、対処のしようがあります。
例えば、この場合であれば他にも会議に時間が取られてという人が必ずいるはずなので、同じように評価シートを記入してもらい、会議の時間が多くて仕事に没頭できないと上司に相談するのも手でしょう。
後輩・部下の指導に時間が取られるのであれば、マニュアル化してみたり、別の人に指導を肩代わりしてもらったりなどの方法が検討できます。


そもそも理想と現実の間にギャップがなければ、苦しむこともありません、それで満足しているんですから。
他のさまざまなサイトで「やりがいを感じられない原因」が載っていますが、そのほとんどをこの8つの要素のギャップで説明できてしまいます。
「仕事量が多すぎる(少なすぎる)」であれば、自分が理想とする「多忙感」とのギャップがあるんだなと想像できます。
他にも「スキルアップを実感できない」のであれば、「有意味感」や「持ち味発揮」の部分とのギャップがあることが想像でき、先ほどの評価シートを使いながら、この部分にギャップがあるという相談を上司にもしやすいでしょう。
「職場の人間関係が原因でやりがいを感じない」という場合は、この8つの要素ではなく、前提の土台の話であることが見えてきます。これは自分だけでどうにかなる問題ではないので、転職も視野にいれなければ、となるわけです。
まとめ
今回のこのリクルートワークス研究所が出した「『働く×生き生き』を科学する」という研究は、今まであいまいだった「やりがい」や「仕事の意味」に具体性をもたせることができた研究でした。
これによって、どのような部分にギャップがあり、どのように解消していけばよいかが従来より明確に“見える化”されました。
もちろん、これだけですべて解決するとは言えませんが、今まであいまいだった部分がクリアになったことで、より働きやすい環境を自分自身、そして上司や社長も作りやすくなったのではないでしょうか。
あとはこの考えを普及してくことが必要ですね。
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